不倫(不貞行為)の慰謝料に関する基本的な知識がわかる
慰謝料の相場や金額を決める要素が理解できる
誰に、いつまでに、どのように請求すればよいかの流れが掴める
証拠集めの注意点やよくある疑問も解説
※この記事は、不倫・浮気の慰謝料に関する一般的な情報を提供するものです。個別の事情によって結論は大きく異なる可能性があるため、具体的な法的助言を保証するものではありません。
1. 浮気(不貞)の慰謝料とは?
パートナーの不倫や浮気が発覚した際、「慰謝料を請求したい」と考えるのは自然なことです。しかし、そもそも慰謝料とは何なのか、どのような場合に請求が認められるのか、基本的な知識を整理しておくことが大切です。
不貞行為の定義
一般に、慰謝料請求の対象となる「不貞行為」とは、配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係を持つことを指します。食事やデートだけでは、法的な不貞行為と認められないケースがほとんどです。
慰謝料の法的根拠と目的
不貞行為は、夫婦の平穏で円満な共同生活を送る権利を侵害する「不法行為」とされています。慰謝料は、この不法行為によって受けた精神的苦痛を金銭に換算して賠償してもらうことを目的としています。
請求が認められやすい/認められにくい例
慰謝料の請求が認められるためには、いくつかの条件があります。
- 認められやすい例
- 不貞行為の明確な証拠がある
- 不貞行為が原因で離婚に至った
- 婚姻期間が長い
- 不貞行為の期間が長く、回数も多い
- 認められにくい例
- 不貞行為以前から夫婦関係が破綻していた(長期間の別居など)
- 相手方に「故意・過失」がなかった(既婚者だと知らず、知ることができなかった場合など)
- 不貞行為を証明する十分な証拠がない
2. 慰謝料の“相場”の考え方
慰謝料の金額について、「相場はいくら?」という点が最も気になるかと思います。しかし、慰謝料には明確な定価があるわけではなく、個別の事情によって大きく変動します。
相場が幅を持つ理由
慰謝料の金額は、以下のような様々な要素を総合的に考慮して判断されます。
| 増額の要因になりうるもの | 減額の要因になりうるもの |
| 婚姻期間が長い | 婚姻期間が短い |
| 不貞行為の期間が長く、回数が多い | 不貞行為の期間が短く、回数が少ない |
| 不貞相手が妊娠・出産した | 不貞行為以前から夫婦関係が悪化していた |
| 不貞行為を主導した側の態度が不誠実 | 請求された側が真摯に謝罪・反省している |
| 請求された側の社会的地位や支払い能力が高い | 請求された側の支払い能力が低い |
離婚の有無で変わる金額の傾向
慰謝料の金額を考える上で最も大きな分岐点となるのが、不貞行為が原因で離婚するかどうかです。
- 離婚する場合の慰謝料:100万円~300万円程度がひとつの目安とされています。離婚という重大な結果を招いたことで、精神的苦痛が大きいと判断されるためです。
- 離婚しない場合の慰謝料:数十万円~100万円程度が目安です。婚姻関係を継続するため、離婚する場合に比べて精神的苦痛は小さいと評価される傾向にあります。
金額の決まり方
最終的な金額は、まず当事者同士の話し合い(任意交渉)で決めます。合意できなければ、家庭裁判所の調停や**訴訟(裁判)**といった手続きを経て、裁判官が過去の判例などを参考にしながら判断することになります。
3. 誰に請求する?配偶者・相手・両方の選択肢
慰謝料は、不貞行為を行った**「配偶者」と「不貞相手」**の両方に対して請求する権利があります。どちらに、あるいは両方に請求するのかは、ご自身の状況や今後の関係性を考えて慎重に判断する必要があります。
配偶者にのみ請求する場合
- 考え方: 不貞相手とは関わりたくない、夫婦間の問題として解決したい場合に選択します。離婚する場合は、財産分与などと合わせて請求することが一般的です。
- 注意点: 離婚しない場合、夫婦の家計から支払われることになるため、実質的な経済的ダメージを与えられない可能性があります。
不貞相手にのみ請求する場合
- 考え方: 離婚はせず、夫婦関係の再構築を目指す場合に選択されることが多いです。不貞の責任を相手方に明確に求めることができます。
- 注意点: 相手に支払い能力があるか、連絡先や住所がわかるか、といった問題があります。
両方に請求する場合
- 考え方: 不貞行為は二人の共同不法行為であるため、両方に責任を取ってほしい場合に選択します。
- 注意点: 二人から慰謝料の二重取りはできません。例えば、慰謝料が200万円と認められた場合、配偶者から150万円、相手から50万円のように合計で200万円を受け取る形になります。また、一方が全額支払った場合、もう一方に対して負担分を請求する権利(求償権)が発生することがあります。
【請求先かんたん診断(3問)】
あなたの状況に近いものを選んで、請求先の方針を考えてみましょう。
- 今回の不貞行為をきっかけに、離婚を考えていますか?(はい/いいえ)
- 配偶者との関係を修復したいですか?(はい/いいえ)
- 不貞相手に責任を強く問いたいですか?(はい/いいえ)
4. 証拠の集め方と注意点
慰謝料を請求する上で、不貞行為があったことを客観的に証明する証拠が極めて重要になります。感情的に相手を問い詰める前に、冷静に証拠を確保することが成功の鍵です。
強い証拠と弱い証拠
証拠には、それ一つで不貞行為を証明しやすい「強い証拠」と、複数組み合わせることで有効になる「弱い証拠」があります。
| 強い証拠(肉体関係を推認させやすい) | 弱い証拠(これだけでは不十分) |
| ラブホテルへの出入りがわかる写真・動画 | 「好き」「会いたい」といったLINEやメール |
| 探偵事務所・興信所の調査報告書 | 二人で食事している写真 |
| 肉体関係があったことを認める音声データや念書 | 高価なプレゼントの領収書 |
| クレジットカードの利用明細(ホテルの支払い) | 第三者の目撃証言 |
証拠の保全・改ざん防止の基本
- スクリーンショット: LINEやメールのやり取りは、日付、相手の表示名、既読がわかるように全体を撮影します。
- 原本の確保: 写真や音声データは、元のデータをUSBメモリなどにコピーして保管しましょう。
- 時系列の整理: 証拠を整理し、いつ、どこで、誰が、何をしたかを時系列でまとめたメモを作成しておくと、交渉や裁判で役立ちます。
違法収集・プライバシー侵害のリスク
証拠を集めたい一心で、度を超えた行為をしてしまうと、逆にこちらがプライバシー侵害などで訴えられるリスクがあります。
- やってはいけない例:
- 相手のスマートフォンに無断でスパイアプリをインストールする
- 相手の車にGPSを無断で取り付ける
- 住居侵入にあたるような方法で証拠を撮影する
安全かつ有効な証拠を集めるためには、専門家である弁護士や信頼できる探偵事務所に相談することも有効な手段です。
5. 請求の基本的な流れ(任意交渉→調停→訴訟)
慰謝料請求は、一般的に以下のステップで進みます。必ずしも裁判になるわけではなく、多くは当事者間の話し合いで解決します。
- 内容証明郵便の送付
- 慰謝料を請求する意思を、書面で相手に明確に伝えます。これにより、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、時効の完成を一時的に猶予させる効果もあります。
- 任意交渉(話し合い)
- 当事者同士(または代理人弁護士を立てて)で、慰謝料の金額や支払方法について話し合います。ここで合意できれば、後々のトラブルを防ぐために**合意書(示談書)**を作成します。
- 調停
- 話し合いで解決しない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員という中立な第三者を交えて、解決策を探ります。
- 訴訟(裁判)
- 調停でも合意に至らない場合、最終手段として訴訟を提起します。裁判官が証拠に基づいて事実を認定し、慰謝料の支払いを命じる判決を下します。
6. 時効の考え方と「間に合うか」の確認
慰謝料を請求する権利には、**「消滅時効」**というタイムリミットがあります。この期間を過ぎてしまうと、たとえ不貞の事実があっても慰謝料を請求できなくなってしまいます。
起算点の代表的な考え方
不貞慰謝料の時効は、原則として以下のいずれか早い方で完成します。
- 不貞相手とその事実を知った時から3年
- 不貞行為があった時から20年
「知った時」がいつなのかは解釈が分かれることもあるため、不貞の事実を認識したら、なるべく早く行動を起こすことが重要です。
完成猶予・更新の手段
時効が迫っている場合でも、内容証明郵便による請求(催告)や、調停・訴訟の申立てなどを行うことで、時効の完成を一時的にストップさせたり、リセットしたり(更新)することが可能です。
【時効カウント目安ボックス】
- 不倫の事実を知ったのはいつですか? → [日付入力]
- 最後の不貞行為があったのはいつですか? → [日付入力]
- ※これはあくまで一般的な目安です。法的な助言ではありません。
7. よくある質問
Q1. 離婚しない場合、慰謝料は減額されますか?
A1. はい、その傾向があります。前述の通り、婚姻関係を継続する場合は、離婚に至るケースよりも精神的苦痛が小さいと評価され、金額は低くなることが一般的です。
Q2. 未婚のカップル(内縁・婚約)でも請求できますか?
A2. 単なる恋人関係では、原則として慰謝料請求は認められません。ただし、事実上夫婦同然の生活を送っていた**「内縁関係」や、結婚の約束をしていた「婚約関係」**が不当に破棄された場合は、慰謝料が認められる可能性があります。
Q3. 相手が慰謝料を支払わない場合はどうすればいいですか?
A3. 合意書を**「公正証書」**にしておけば、相手が支払いを怠った場合に、裁判を起こさなくても給料などを差し押さえる強制執行の手続きが可能になります。すでに判決や調停で支払いが決まっている場合も同様です。

